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壁ドン。
今日も隣りから大きな声がする。酔っぱらった男が同棲中の女に絡んでいるのだ。耳を塞ぐ。だが、下品で威圧的な声は止まらない。
「いい加減にしてくれ!」
たまらず壁を叩いた。とたんに静かになる。壁ドンで静かになるのは、はじめてのことだ。嬉しくてテレビをつけて寝転ぶ。これでゆっくりできる。
「あれ……?」
テレビ本体を確認するが異常はない。だが音量は50と出ているのに、聞こえないのだ。
目の前で手を叩いてみる。パンッと手の弾かれる音もしない。
「おおおおおい!」
やはり何もきこない。あらゆる音が消えている。
「もしかして……」
ためしに壁ドンをしてみた。
「テレビうるせい!」
隣人が騒いでいる。慌ててテレビの音量をさげる。再び壁ドン、静寂。壁ドン、音あり。
どうやら壁ドンが音のスイッチになってしまったようだ。
「嘘だろ……」
あらゆる場所を叩いてみた。机ドン、テレビドン、丼ドン。何の変化もない。あるのは隣りの部屋とを隔てる、薄汚れた壁だけ。
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