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デザイナーズマンションの最上階のペントハウス。
磨き上げられた広大なリビングルームの一角には、創業から180年でまだ生産台数がたった5万台程度と「幻の名器」とも「ウィーンの宝」とも謳われるベーゼンドルファーのグランドピアノが漆黒の艶を放つ。
その前に座る秀一の美しいライトグレーの瞳が、繊細な眼鏡のフレームから妖艶に映し出される。演奏の時にはいつも後ろで纏めている髪は、今日は肩で揺れて艶かしい曲線を描き、それが彼の色香をいっそう匂わせていた。
心臓の鼓動をドクドクと響かせる美姫に秀一が優美に顔を近づけ、鼻と鼻を合わせる距離で囁いた。
「美姫、貴女を心から愛しています」
それはドロリと甘く蕩ける毒を含んだ蜜のように、美姫の全身を痺れさせた。
「しゅう、いち……さん……」
ほん、とに?
秀一さん……が、わたし、を?
美姫は、今聞いた言葉が信じられずにいた。
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