1 月あかり

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*  ギルベルトは、ゲシェンクだった。  ゲシェンク。  それは、贈り物(ギフト)。  地球(ガイア)からの、贈り物。    ゲシェンクの血には、何ものにも勝る治癒力がある。  どのような病も怪我も、一瞬で治してしまう。  だがそれは、生涯で、ただ一人だけ。  その上、ゲシェンク自身も、大きなリスクを負わなければならない。  死ねなくなるのだ。  誰かに血を与え、その命を救ったなら、与えた者は、死ねなくなる。  不死の命を生きることになる。  これはしかし、恩恵ではなかった。  年は取るのだ。怪我も病気も、普通にする。  それでも、死ねない。  苦しんで苦しんで、でも生き続ける。  肉体が消滅しても、魂だけはこの世に残り、苦しみ続ける。  唯一その苦しみから解放してくれるのは、彼が血を分け与え、命を助けた者だけだ。  己が命を救った者だけが、己を殺すことができる。  永劫の苦しみを、終わらせることができる。  生涯で、己の血を以って、ゲシェンクが救える者は、一人。  彼を死なせることができるのは、その者、ただ一人。
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