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ゲシェンクは、彼が救い、また彼に死をもたらす救済者を、何度でも救うことができる。
生涯、守護することができる。
なぜなら……。
もし、ゲシェンクより先に、救われたものが死んだのなら。
ゲシェンクを殺さずに、死んでしまったのなら。
残されたゲシェンクの、そこから先の運命は、恐ろしくて言葉に出せない。
密かに言い伝えられている噂がある。
黒い森を抜けた先にある、エリスの荒野。棘のあるつる草で覆われた、この荒涼とした平原は、昔、鳥葬の場だったという。
死体を転がしておいて、鳥に食べさせるのだ。
エリスの荒野は、いつも、風が吹きすさんでいる。
ごうごうというその風の音に、時に、人間の、苦痛に悶える叫びが、混じって聞こえる。それは、未だ死に切れぬ、ゲシェンクの声だという。
ゲシェンクの血を分け与えられ、命を救われたとしても、その者は、まだ、不死ではない。
その血で命を贖われただけでは、ゲシェンクには変化しないのだ。
普通に人間らしく、その生を全うできる。
殺してもらわなくても、死ねる。
不死の苦しみを味わうことはない。
……わが血をもって、他者の命を救いさえしなければ。
誰にも自らの血を分け与えなければ。
ただ、己の血液に高い治癒能力を宿すのみだ。
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