1 月あかり

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 ゲシェンクは、彼が救い、また彼に死をもたらす救済者(メシア)を、何度でも救うことができる。  生涯、守護することができる。  なぜなら……。  もし、ゲシェンクより先に、救われたものが死んだのなら。  ゲシェンクを殺さずに、死んでしまったのなら。  残されたゲシェンクの、そこから先の運命は、恐ろしくて言葉に出せない。  密かに言い伝えられている噂がある。  黒い森を抜けた先にある、エリスの荒野。棘のあるつる草で覆われた、この荒涼とした平原は、昔、鳥葬の場だったという。  死体を転がしておいて、鳥に食べさせるのだ。  エリスの荒野は、いつも、風が吹きすさんでいる。  ごうごうというその風の音に、時に、人間の、苦痛に悶える叫びが、混じって聞こえる。それは、未だ死に切れぬ、ゲシェンクの声だという。  ゲシェンクの血を分け与えられ、命を救われたとしても、その者は、まだ、不死ではない。  その血で命を贖われただけでは、ゲシェンクには変化(へんげ)しないのだ。  普通に人間らしく、その生を全うできる。  殺してもらわなくても、死ねる。  不死の苦しみを味わうことはない。  ……わが血をもって、他者の命を救いさえしなければ。  誰にも自らの血を分け与えなければ。  ただ、己の血液に高い治癒能力を宿すのみだ。   
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