1 月あかり

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 夜は、小さな洞窟を見つけて、眠った。  こうなると、敵兵より、肉食獣の方が怖い。  だが、たき火を焚くわけにはいかなかった。  敵に見つけられる恐れがある。 「大丈夫だ。ここは、オオカミの巣だ」 ギルベルトが言うと、クラウスは、目を瞠って、あとじさった。 「安心しろ。オオカミは、死んでいる。それも、つい最近だ」 「なぜ、そんなことがわかるの?」 「糞が乾燥してるから。でも、風化はしていない。匂いが残っている。他の獣は、近寄ってこない筈だ。今夜は、安心して眠れる」 背嚢に詰め込んできた、パンを取り出した。 「食え」  子どもは、じっとギルベルトを見た。  遠慮しているのだ。 「お前の家から持ってきたものだ」 そう言うと、両手を差し出し、受け取った。  食べ終わると、もう、寝るしかない。  明日の朝は、早い。  大きな岩に凭れ掛かるようにして、ギルベルトはマントの前を開いた。 「ここへ来い」 ぎょっとしたように、子どもは目をむいた。 「火は使えない。跡が残るからな。敵に目印を残すようなものだ。だが、夏とはいえ、山の夜は、結構冷える」 「……」  クラウスは、近寄ってこなかった。  じっとこちらを窺っている。  月明りでも、その目が、全く表情を宿していないことに、ギルベルトは気がついた。 「……俺は、お前の、親父じゃないぞ」 彼は言った。 「誰もがみな、子どもを殴ったりするわけじゃない」  そう言って、目を閉じた。  もそもそと、近づいてくる気配がした。  暖かい塊が、マントの下に潜り込んでくる。  しっかりとくっつき合って、二人は眠った。
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