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夜は、小さな洞窟を見つけて、眠った。
こうなると、敵兵より、肉食獣の方が怖い。
だが、たき火を焚くわけにはいかなかった。
敵に見つけられる恐れがある。
「大丈夫だ。ここは、オオカミの巣だ」
ギルベルトが言うと、クラウスは、目を瞠って、あとじさった。
「安心しろ。オオカミは、死んでいる。それも、つい最近だ」
「なぜ、そんなことがわかるの?」
「糞が乾燥してるから。でも、風化はしていない。匂いが残っている。他の獣は、近寄ってこない筈だ。今夜は、安心して眠れる」
背嚢に詰め込んできた、パンを取り出した。
「食え」
子どもは、じっとギルベルトを見た。
遠慮しているのだ。
「お前の家から持ってきたものだ」
そう言うと、両手を差し出し、受け取った。
食べ終わると、もう、寝るしかない。
明日の朝は、早い。
大きな岩に凭れ掛かるようにして、ギルベルトはマントの前を開いた。
「ここへ来い」
ぎょっとしたように、子どもは目をむいた。
「火は使えない。跡が残るからな。敵に目印を残すようなものだ。だが、夏とはいえ、山の夜は、結構冷える」
「……」
クラウスは、近寄ってこなかった。
じっとこちらを窺っている。
月明りでも、その目が、全く表情を宿していないことに、ギルベルトは気がついた。
「……俺は、お前の、親父じゃないぞ」
彼は言った。
「誰もがみな、子どもを殴ったりするわけじゃない」
そう言って、目を閉じた。
もそもそと、近づいてくる気配がした。
暖かい塊が、マントの下に潜り込んでくる。
しっかりとくっつき合って、二人は眠った。
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