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それは、戦地で一緒だった友だった。
背後からのユートパクス軍の攻撃で、味方は、壊滅的な打撃を受けた。
ギルベルトも大腿部を損傷し、大量の出血をしていた。
死ぬのは時間の問題だった。
目を閉じ、痛みと戦っていた。
時折意識が途切れ、激痛で現実に引き戻される。
あちこちで、断末魔の声が聞こえた。死んでゆく戦友達の、うめきだ。
なかのひとつがやけに大きいと思ったら、自分の声だった。
獣のように、うめいている。
そうしてまた、ふっと意識を失った。
どれくらいそうしていたろう。
朦朧とした中に、突如、光が差し込んだ。
……もうだめか。ここまでか。
……死ぬ間際に明るい光を見るというのは、本当なんだな。
特に、何の感慨もなかった。
ギルベルトの両親と弟は、国境近くに住んでいた。
最初のユートパクス軍侵攻で、逃げ遅れて死んだ。
ギルベルトだけが、生き残った。家族と離れ、ウィルンで一人暮らしをしていたからだ。
徴兵は、志願してのことだった。国を守ろうと思った。
国を。
美しき母国、ウィスタリアを。
父と母と弟の生まれ、死んでいった国を。
佳き帝王、フランティクス皇帝の治めるこの国を。
だが、力及ばなかった。
今、こうして、死んでいくのは、本意ではなかった。
ウィスタリアを、守れなかった。
全く、不甲斐ない。
命を捨て、火薬を抱いて、敵軍に突っ込むことさえ、かなわなかった。
だが、仕方がないではないか。
結局、自分は、その程度なのだ。
やるべきことはやった。
やれる、せいいっぱいまで、やった。
だから、もう、いい。
今こそ、自分と和解するのだ。
家族を、まったくの無策に死なせてしまった己の無能さと。
自分だけ生き残った罪業と。
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