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1 月あかり
(Alter : Klaus 7)
--クラウス7歳 --
「ここへおいで」
優しい声で、父は、クラウスを呼んだ。
「こっちに来るんだ」
ずっと不機嫌だった父さんが、笑っている。
クラウスは嬉しかった。
父は、クラウスの、たった一人の、家族だ。
母は、この国が最初に戦に負けた時、家を出て行った。
敵国の兵士と、出奔したのだ。
戦争のせいで、父は、荘園を失ったから。
……それから、父さんは、笑ったことがない。
「こっちへおいで、クラウス」
けれども今、父は笑っていた。
クラウスは、嬉しさのあまり、跳ね回りたいくらいだった。
頑張ろう。
クラウスは思った。
家は貧乏になり、使用人たちはみないなくなったけど、
でも。
……僕、頑張るから。
……父さんの為に、一生懸命、頑張る。
体の奥から、喜びと、希望が湧いてきた。
自分は何でもできる。
父さんさえ、いてくれたら。
父さんが、自分のことを、好きでいてくれたら!
……僕、頑張るよ。
父親が動いた。
背中に隠した何かを前に出す。
狩猟用の散弾銃だった。
駆け寄ってくる息子に、父は、銃口を向けた。
笑ったままの息子に向けて、引き金を引いた。
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