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「あっ、片桐くーん!」
大きな声で、手を大きく振って叫んだ波留に、惟子と京平はぎょっとして慌てて波留の口を押えた。
「うむむ……」
そんな事をやっているところを、ゆっくりと振り返った片桐がじっと見ていた。
そのまま歩き出してしまった片桐を見て、「ほら、言っちゃったよ」不服そうに言った波留を、ふたりは苦笑して見ていた。
「じゃあね」
分かれ道でふたりと別れた波留は、ぼんやりと海を見つめる片桐を見つけて走り出した。
「かた……」
そこまで声を出して、慌てて波留は立ち止まった。
そこには少し悲しそうで、今にも泣きそうな片桐の顔があった。
声を掛ける事はできず、しばらく片桐の後姿を何をするわけでもなく見つめた。
どのくらい時間が経ったが分からなかったが、時間はちょうど夕暮れ。真っ青な空に白い雲だった空が茜色の雲から差し込む光で、水面も赤く色づき、幻想的な雰囲気だった。
そして、ふと片桐が振り返り波留と目が合った。
ドキン。
波留の胸が大きく高鳴り、波留は片桐から目が離せなかった。
「なに?あんた」
感情の無い声で言われた言葉に、「えっと……何してたの?」それだけを何とか言葉を掛けると、波留は返事を待った。
「いや?別に。海を見ていただけ」
無視されることを覚悟していた波留は、返事をしてもらえたことに嬉しくなり、片桐めがけて走り出した。
「海!きれいでしょ?東京とちがって」
ニコニコと言った波留に、片桐は少し戸惑った顔をした。
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