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「ああ、うん。まあ」
「よかったぁ~」
「何が?」
「少しでもこの島の良い所を知ってもらえたら嬉しいでしょ?」
片桐がポカンとしている理由など全く分からない、波留はキョトンとして片桐を見た。
「えーと?」
「あっ、波留。長沢波留!よろしくね。片桐…?」
「翔真。片桐翔真だよ」
「翔真……君。片桐翔真君ね」
翔真と呼ぶことはさすがの波留も勇気が出ず、ごまかすように言葉を重ねた。
「長沢さんておもしろいね」
クスッと笑っていった翔真に、
「あっ、笑った!片桐君!」
「え?俺だって笑うよ。本当に変なの」
少しむすっとして言った片桐に、波留は尚もうれしそうな笑顔を向けた。
「長沢さん、座ったら?」
翔真に自分の座っていた横を、目で合図され波留はおずおずとそこへと腰を下ろした。
海が目の前に見える漁港の堤防。
足をブラブラとしながら、下の海を見た。
「ねえ、ねえ、魚みた?」
「え?魚?」
「うん、ほら!あそこ!すぐそこに小さな魚見えるでしょ?」
波留に言われて、片桐も海を注意深く除くと、
「ああ、いた。小さい黒と白の魚。すげー!こんな近くの海で魚見えるとか」
本当に感動したのであろう片桐に、
「じゃあ、今度一緒に海中公園行こう?」
「海中公園?」
「うん。海の中に塔が建っていて、階段で下におりるの」
「下へ?」
「そう、海の中。窓からいっぱいの魚がみえるよ」
少し考えたようにしていた片桐だったが、
「この島にあるの?」
「ううん、あの島!でも船ですぐだよ」
波留の指さした先には、今いる島より大きな島が見えた。
「あれ、島と言うか本島だよね?」
呆れたように言った片桐に、
「本島のトウって島って漢字を書くでしょ?ほら、日本列島もここと同じ島だよ」
屁理屈のような事を言った波留に、とうとう片桐は大声を上げて笑い出した。
「ああ。久しぶりに笑った気がする。ありがとう長沢さん」
「え?え?なんでお礼を言われたの」
全く意味の分からないと言った波留に、「言いたくなっただけだよ」そう言って片桐はまた笑った。
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