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その人は教室の中にいる私を見て名前を呼んだ。
日本史の女の先生。年齢は30歳くらいだと聞いた。
まあ、年齢なんてどうでもいいけど。
いつも笑ってて、明るくて。
そして、私の好きな人。
「どうしたの?帰らないの?」
「先生こそ。どうしたんですか?」
「見まわり。残ってる生徒がいないか。それから戸締り」
手に持っている鍵を私に見せる。
これは幸運だったと喜ぶべきか、運がなかったと思うべきか。
先生は前の席に私の方を向いて座った。
「皆もう帰ってるよ。帰らなくて大丈夫なの?今日はお祝いでしょ?」
ああ、好きだな。
「そうですね。でも多分大丈夫だと思います」
なんて適当に返事をして。
きっと先生は知らない。
先生の笑顔を見ながら私がどう思っているかなんて。
先生が好きだから、褒めてほしくて先生のテストを頑張った。
先生に私のクールなところが好き、って言われた時はイメージを壊さないように振る舞った。
本当はそんな性格じゃないのに。
「先生、私たちが卒業して寂しいですか?」
そんな質問をすると先生は頷いた。
「――たちの授業をしたのは1年だけだったけど、寂しいな」
その言葉がすごく嬉しくて 、涙が出そうになって。
「あはは、寂しくないとは言えませんもんね」
素直に喜べず茶化してしまう。
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