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杉里は、無理やり唾を飲み込んで、静かに打ち震えていた。
「ありがとう」
杉里のよく知る隼人の温かな笑顔が、そこにあった。
「隼人、俺……」
「行くぞ」
煙草を咥えた男が吐き捨てるように言って、さっさと運転席に乗り込んだ。
「心配しなくていいよ」
隼人が言った。
「え?」
「守って貰わなくてもいいんだ。俺はもう、何も怖くない。自由になれたんだ」
きょとんとする杉里に、隼人が顔を寄せる。頬に、唇の感触。
「バイバイ」
放心する杉里を置いて、隼人が後部座席に乗り込んだ。すぐにエンジンがかかり、車のテールランプがあっという間に小さくなる。
犬のジーザスが、顔を空に向けた。口を細く尖らせ、長く、吠えた。
杉里は崩れ落ち、飼い犬の首に抱きついて笑った。
「お前、それ、負け犬の遠吠えか?」
心配しなくていい。
自由になれた。
何も怖くない。
隼人がそう言った。杉里は安堵のため息を吐く。罪悪感が、消えた。
明日から、爽快で気持ちのいい朝を迎えられるだろう。
〈了〉
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