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プロローグ
雨が降っている。
暗闇と静寂の中で、雨の音しか聞こえない。雨音が奏でるのは、まがまがしく、不吉なメロディだ。
静かに窓を閉めると、うつむいてため息を吐いた。もう夜も遅い。眠らなければ。
明かりを消した。布団に潜り込む。冷えた体を丸めた。湿った空気の中で、目を閉じる。
予感があった。頭痛が起こる前触れの、目の奥で何かが弾けるような、表現しがたい感覚。
今日は、来ないで。
少年は、布団の中で息を殺す。
――ふふふ。
頭の中で笑い声が聞こえた。ざわざわと、大勢の人間が一斉に会話を開始した。
一人ひとりが何を喋っているのかはわからない。好き勝手に、喚いている。
耳を塞ぐ。そのことに意味がないことはわかっていた。声は、頭の中で鳴っている。
痛い。頭が割れる。骨が、軋む。
布団の中で、もがく。少年は抗った。だがその抵抗もむなしく、意識が、体が、浸食される。
そのとき、乱暴な音を立て、ドアが開いた。
酒臭い息を弾ませる男が立っている。明かりのない部屋を、男は足元をふらつかせながら、それでも確実にベッドにたどり着く。そして、人型に膨らむ布団に手をかけ、剥ぐ。
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