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「馬鹿でいい。イエスかハイで答えて」
「もちろんイエスでハイよ」
亜希はそう言って破顔した。そして亜希のその言葉に私は愛を感じた。私はようやっと亜希の隣で過ごすことを許された。亜希が見る風景を共有できることに心の底から有難いことだと思った。私は甘やかな抱擁を再び手に入れた。柔らかな亜希の肌に私の肌が吸い付く。私の腕のなかで、ふたつの生命が脈打っている。それが本当に奇跡のことのように思えた。
バースデイソングが暗い黒猫で流れる。今日は一花の誕生日だ。
亜希の子どもであり、私の子どもでもある、一花はすくすくと育ち、無事一歳を迎えた。
「一花、ロウソクをふーってして」
亜希はそう言って、一花は私の腕に抱かれて、力いっぱいの空気を吐き出した。ロウソクが消えるといつもの黒猫の明るさになった。一花ちゃん誕生日おめでとう、とシェフである谷本さんが言った。無口で不愛想な谷本さんは意外と子煩悩だということに、気がついた。谷本シェフは他人の子どもだから可愛がれるのさ、と照れていた。
今日は黒猫のオーナーの皆川夫妻が店を貸し切りにして、スタッフに囲まれ一花の誕生日を祝ってくれた。
「竹本さんは明日からお仕事でしょう。どこに行かれるの?」
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