金の葡萄

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「腹は決まったみたいね。晴れ晴れしい顔をしているわ。人生は万事おもしろくなくちゃ」 「はい」  私はオーナーと瑤子さんが背中を押してくれたことに感謝した。そして私の人生なんてどうとでもなるのだから、亜希とその子どもに明け渡してもいいだろう、とそう思った。私の人生を丸ごと亜希にあげたい。それ以上の愛情表現を私は知らない。  亜希の部屋は相変わらず、雑然というより、むしろ荒廃の影を落としていた。 「つわりのほうは落ち着いた?」 「まだまだ。おかげでトイレとお友達よ」  私は温かいローズヒップのハーブティを出され、それを一気に飲むと、亜希の足元に跪いて、手を取った。 「私は亜希のことが好き。いま亜希がつらいのはわかっている。だからこそ私を利用してもいい。隣にいたい。亜希、一緒に住もう。そして赤ちゃんと一緒に三人で暮らそう」  亜希の視線は私の顔に釘付けになり、そして私の思わぬ告白に視線を泳がせた。そして自嘲気味に言う。 「真砂ちゃんって本当にお馬鹿さん。私なんて取るに足らない人間なのに」 「亜希が思っている以上に私は亜希のことを大事に思っているよ。きっとお腹の赤ちゃんも」  私は取った手をよりいっそう強く握った。亜希は目を潤ませて私の手をぐっと握り返した。 「真砂ちゃんって本当に馬鹿」     
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