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「プエルトリコに行きます。興味深いところですよ」
亜希は炭酸水と瑤子さんはワインを片手に談笑していた。私は一花を腕から降ろし、一花は谷本さんの方に歩いていった。まだよちよち歩きで足元が覚束ないので、私は一花を見守った。
「亜希ママと一緒にいれなくて一花ちゃんは寂しがったりしない?」
「一花ったら真砂ママの方が好きって言うんですよ」
私は亜希と瑤子さんの話に聞き耳を立て、少しの優越感を覚えた。一花が産まれて私と亜希の結束はより強固なものになった。不安がる暇もなく子育てに苦心した。しかしその甲斐あってか、すくすくと一花が育つことが嬉しい。
「今日のワインはまた格別に美味しいですね」
「価格を度返してもいいとオーナーが言ったので」
森田さんが話しかけてくると、私は黒猫で最高級とは言わないまでも、ベターなワインを開けることにした。
気が早いが一花が二十歳になったら生まれ年のヴィンテージワインを送ろうと私は考えていた。一花はたった一年でこんなに大きくなったのだから、一九年なんてあっという間に過ぎてしまいそうな気がした。
亜希と出会わなかったら、一花を育てることもなかった。生きる歓びの金の葡萄は証として今日も私の胸元で光っている。
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