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銀の月を見ていたらタキシードを着たウサギに声をかけられた。シルクハットのつばに優雅な手つきで触れながらウサギが言う。
「月の光を浴びるとその光が体に染み込んで青い体になるよ」
青い体になったらどうなるんだろう。と思っていたら体が宙に浮いた。どんどん空を登って行ってもう少しで月の手が届くという高さで、今度は下がり始めた。
どうしたのかと思って自分の体を見下ろすと、さっきのウサギが脚にしがみついている。ピンと立った耳。シルクハットはどこかに行ってしまったらしい。
「きみがぼくの脚のしがみついているせいで、あの銀の月まで登れないじゃないか」ぼくがウサギをなじると申し訳なさそうにウサギが言った。
「わたしも連れて行って欲しい。この月のかけらを嵌め込まないといけないんだ」ウサギがポケットから取り出したのは銀色に光る楕円。
「そんなポケットに入るほど小さい物が月のかけらだなんて信じられない」
「そんなことを言われても本当のことだよ。早く嵌め込まないと。すぐに欠けてしまうから忙しくて」
「嵌め込まないとどうなるの」
「月がどんどん細くなって消えてしまう」
月が消えてしまったら大変だ。でもウサギがしがみついているせいで登れない。
「息を止めて。そうすればわたしがいても登って行くよ」
ウサギに言われたとおり息を止めると体がまた上昇し始めた。苦しくなって息をすると下がってしまうから、できるだけ息を止めて頑張ることにする。
あと少し。もう少しで月に手が届く。手を伸ばして・・もう少し・・
やっと指先が触れた三日月は冷たかった。触れた指が青くなる。
「気をつけて。尖った先に触ったら折れてしまうからね」
ウサギがぼくの脚から体を登って月を捕まえている腕を伝って行く。そしてポケットからさっきのかけらを取り出して三日月に嵌め込んだ。
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