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ひときわ青く輝いた丸い月。どんどん大きくなってぼくの手を離れてさらに大きくなってゆく。そして空を高く高く登って、もうぼくの手の届かない高さまで行ってしまった。
気がついたら地面に立ってまん丸い月を見上げていた。手を引っ張られたので見ると、さっきのウサギがぼくに手を差し出して「もう返してもらっていいかな」と言った。
「返すって何を」
「わたしの帽子。きみが被っているそのシルクハットさ」
ハッとして頭に手をやるといつの間にかウサギのシルクハットを被っていた。もちろんぼくはそれを脱いで・・脱げない。
「ねえ。きみの帽子がぼくの頭しっかり嵌ってしまって脱げないんだけど」
するとウサギは嬉しそうに言った。「それならきみがわたしの代わりに選ばれたんだ。これでもう月まで登らなくて済む」
「どう言うこと?」
「これからはきみが月の面倒を見るんだよ。さっきも言ったけど、月はすぐに欠けてしまうから。ほら」
ウサギが指差した空を見ると、光るものが落ちてくるところだった。ゆっくり舞うように落ちてくるそれを、手を伸ばして受け止める。それはさっき嵌め込んだばかりの月のかけら。
「ぼくはどうすれば・・」ウサギに話しかけたぼくの言葉が青い月の光に吸い込まれてゆく。ウサギなんかどこにもいなかった。
仕方ない。ぼくがやるしかないか。
手のひらに乗った青白く光る月のかけらを眺めながら、ぼくはため息をついた。
空には素知らぬ顔をした、クレセントムーンが光り輝いていた。
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