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南海電鉄に揺られていた。
僕は窓からの景色を特に見ることもなく暇つぶしスマホを覗いていた。
その時だった。
住吉の 粉浜のしじみ 開けも見ず 隠こもりてのみや 恋ひわたりなむ
唐突のことだった。
隣のつり革に掴まって立っていた僕と同年代、そう15,6歳ぐらいの少女がポツリと和歌を呟いたのだった。
和歌が頭の中にループする。
住吉の 粉浜のしじみ 開けも見ず 隠こもりてのみや 恋ひわたりなむ
簡単に言えば好きな人に気持ちを打ち明ける事もせずに恋心を内にいつまでも留めておくと言った趣旨の和歌だろうか・・・そう恋心を伝えられない、片想いの歌だった。
僕は15、6歳の少女が今時の短歌ではなく、そんな和歌を呟いた事を不思議に思い、何気にスマホでその和歌を検索してみたのだった。
するとその和歌は南海電鉄の駅、粉浜駅近くにある歌碑に刻まれた作者不詳の万葉歌である事が判明した。
僕は一瞬、この少女が作った和歌だったら、この年頃にしては渋いと言うか相当変わった女の子だと思ったので少し納得出来たのであった。
もしかすると少女の気持ちをこの和歌が代弁しているのかも知れなかった。
するとだった。
チラッと少女が僕のスマホの画面を覗き込みボソリと小さな声で呟いた。
「人が呟いた和歌をスマホで検索するなんてキモイです」
僕は焦った。そう言われれば確かにキモイかも知れない。だから咄嗟に言い訳を考えた。
「いえ、誤解です。実はさっきのあなたの和歌に僕は共感出来るものがありまして・・・その、そう!僕は今、片想い中なのです!」
するとジト目で僕を不審そうに見ていた少女だったが、誤解が解けたのか可愛らしい林檎の様な頬をテカらせて答えた。
「えっ?あの和歌の切なさをあなたも身に染みて分かっているのですね!私達似た者同士ですね?お友達になりませんか?」
突然の友達宣言に一瞬たじろいだが、はっきり言ってとても可愛らしい少女だった為に僕は思わずOKを出してしまったのであった。
「本当ですか?僕、実は和歌に詳しいんです!色々和歌の事など話し合いましょう」
ハッタリだった。和歌の事など全く知らない。
だがその嘘は一瞬で見破られてしまった。
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