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◆
翌日、僕は南海電鉄に揺られていた。
昨日、少女は歌碑がある粉浜駅付近に家があると言うので降りた。
僕は粉浜駅の次の駅、住吉大社駅付近に家があるので車内で別れた。
僕はなんば駅からバスで通う高校に行く為に寝ぼけ眼でぼんやりと窓の景色を見ていたのだが、バイブレーションでメールが届いた事を知り、ポケットからスマホを取り出しメールを確認した。
あの少女からだった。
名前は五木美玖。昨日別れ際名前を教えて貰ったのだ。
届いたのは相聞歌だった。
遠くから 今日も明日も 明後日も ただ見てるだけ あなたの背中
正直、彼女自身に歌の才能がある様には思えなかったが、シンプルに片想いを歌った好感が持てる歌だった。
僕達は想い人同士ではない。
だから自ずと互いが互いを思う相聞歌とはならず、ちょっとちぐはぐな歌の返しになるかと思ったが僕はメールを打った。
ただ見てる だけの恋から 後一歩 進めば変わる 明々後日の君
そう、もし一歩勇気を持って進めば明々後日はどう恋の運命が変わるか分からないではないか?
すると直ちに返信があった。
その勇気 あるなら既に 告ってる 告れないから 恋に悶える
分からなくはない。まあ恋と言うのはそんなものなのかも知れない。
僕は返信した。
恐いよね フラれる事を 思う時 それだけ彼に 恋した証
そうフラれるのが恐くないなら好きではない証拠だろう。
メールを送ると即返信があった。
でもいつか 告白すると 決めた恋 抑えられない 恋あると知る
僕は罪悪感に囚われていた。そう彼女は僕を良き恋の相談相手だと思って歌を送信して来ている。そう同じ片想いの境遇の者として。
彼女は真摯にその相手の事を思っている様だった。
きっと歌の内容からするに好きで好きで堪らないのだろう。
僕はその日
「頑張ってね」
そう短歌で嘘を吐く事が出来ずにそう返信し締めくくったのであった。
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