最後に最初の、相聞歌

5/10
前へ
/10ページ
次へ
                   ◆ それからも僕が朝と夕方南海電鉄に揺られている時間になると彼女は相聞歌を、そう僕らの間の変則的な相聞歌を送って来たのであった。 彼女はピュアに恋していた。 そう片想いの切ない恋を。 今日君と 通りすがりに 触れ合った 肩と肩だけ 見知らぬ二人 遠くから 君の笑顔を 見てる時 私の一番 至福な時間 明日言おう そう明日ならば この気持ち 伝えられると 何度思いぬ 車窓から 外見る君の 横顔を 気付かれぬ様 そっと盗み見 ああ・・・彼女の片想いの相手は南海電鉄に乗ってる訳だ。 ああ今日も 同じ車両に 乗れた事 恋の神様 感謝している つり革に 揺られる君の 寝ぐせ見て そっと優しく 触れてみたいな へえ、その人寝ぐせがあるんだ。ちょっと僕に似ているな・・・。 そして僕もそれなりの歌を罪悪感に囚われながらメールで返していた。 そんなある日の事だった。 学校帰り、南海電鉄に彼女と揺られていた。 毎回同じ時間に乗車していると言う訳ではなかったが偶に時間帯が重なった。 その頃になると僕らの間も打ち解け合い、下の名前で互いを呼ぶ様になっていた。 「秋信、中々、歌上達しないね。本当に心を込めて返信して来ている?」 僕は焦りを隠して答えた。 「とっ、当然さ。歌に気持ちを込めて送っているよ」 彼女はジト目でしばらく僕を見た後、照れ臭そうに言った。 「今度、二人でどっか遊びに行こうか?」 そう僕らは相聞歌の遣り取りをしていただけで、二人でどこかに出掛けた事が一度もなかった。 僕は笑顔で答えた。 「今度の日曜日、みさき公園にでも遊びに行こうか?」 みさき公園は南海電鉄が運営しており、動物園など色々な施設がある遊園地だった。 「本当?嬉しい!」 目をキラキラさせて喜ぶ彼女。 まあ時には恋を忘れて思いっ切り遊ぶのも悪くないかも知れない。 するとその時だった。 「秋信じゃない?ねえ秋信よね!私のこと覚えている?」 見知らぬ女性だった。年頃は僕と同じぐらい。ウチの高校と同じ制服を着ていたが、こんな美女見た事もなかった。
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加