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それは相手も同じだったようで、オレと同じような姿勢になった。
問題のその人物はというと……。
「アヤメ、こんな夜中に何やってんだ?」
シンクの傍でアヤメが所在無さげに突っ立っていた。
泥棒じゃなかった。
これでひと安心だが、疑問は形を変えて再度浮かび上がる。
深夜に独り、暗がりで何をしていたのか、ということだ。
「ごめんね。起こしちゃったかな」
その声は少し弱々しい。
その両目も赤く染まっている。
オレはモップを投げ捨てて歩み寄った。
「どうした、何かあったのか?!」
「ううん。何かあった訳じゃないの。ただ……」
「ただ?」
「あの女の子が、羨ましくって」
「それって、どういう事?」
立ち話で気軽に聞けるような話じゃないようだから、テーブルに着くよう促した。
アヤメはゆっくりと椅子に座り、静かに項垂れた。
オレはその姿を視界に収めつつ、向かい合うようにして座る。
ギシリと鳴る椅子の音が、酷く煩わしく感じられた。
「前に話したかもしれないけど、私も転生者なんだ」
ポツリ、ポツリと言葉が紡がれていく。
一語一語確認するかのように静かに、そして丁寧に。
「私の死因は事故死らしいの。卒業旅行中での事なんだけどさ。ツイてないよね」
「かなり前に聴いたと思う。それで?」
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