第12話  アヤメの想い

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「その旅行はね、両親に反対されてたの。『子供だけで危ないだろ』ってさ。私はそれに反発して、家出半分のつもりで参加したんだ」 その結果、旅先で帰らぬ人になったのか。 それは相当悔しいだろうな。 両親はもちろん、アヤメ本人も。 「どうにかして両親に謝りたい。そして、幸せだった事をどうにかして伝えたいんだけど、この状況でしょ?」 アヤメが言う通り、イバラキは隔絶された世界だ。 電話やネットはもちろん、手紙ひとつ出すことはできない。 それらは既に確かめている。 「自分の事ながら、叶わない願いを持ってるなーとは思うよ。理屈じゃわかってるの。でも……」 「気持ちは別って事か」 アヤメがゆっくりと頷く。 晩飯の時の『連れ出してくれる人』っていうのは比喩表現じゃなかった。 恋人を指していたんじゃなくて、イバラキから脱出させてくれる人そのものだったんだ。 アヤメの切実な願いが胸に突き刺さる。 あんなに浮かれきっていた自分をぶっ飛ばしてやりたい。 そして、この異様な世界を生み出した張本人にも腹が立つ。 イバラキを異世界化させた謎の魔術師。 その人物が憎らしくなった。 この状況を生み出した事情はあったんだろうが、全く許せる気がしない。 「アヤメ」 「なぁに?」 力なくテーブルに置かれたその両手。 オレの手よりずっと小さくて、力の籠っていないアヤメの手。     
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