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それをゆっくりと包みこみ、グッと力をいれた。
オレの意思を少しでも多く伝えるために。
「ここから抜け出そう。イバラキから脱出しよう!」
「でも、それは私も試したよ。結果はこの通りだけど……」
「それは1人でか? それとも何人も連れて試したのか?」
「えっと、私だけ……だったよ」
「じゃあ試してみる価値はある。1人では無理でも、2人なら大丈夫かもしれない」
自信たっぷりに言ったが、根拠は何一つ無い。
でもほんの少しでも可能性があるなら、それに賭けるべきだろう。
転生者2人で挑めば、何かしらのキッカケが掴めるかもしれない。
その可否を知るには、実際に試してみるしか無い。
「……わかった。やってみよう」
「よし、決行は今日。夜が明けてからだな」
「随分と急だね。もしかして、せっかち?」
「目の前で泣かれちゃあな。すぐにでも解決したくなるだろうよ」
「そう……。ダイチくんは優しい人だもんね」
そう言ってアヤメは笑った。
その笑みに、ようやくオレも心が和らぐ。
それでも本当に見たいのは、別のものだ。
涙の跡のない、純粋な笑顔。
それを見るまで諦める事は無いだろう。
それからオレたちは眠りにつき、朝を迎えた。
午前8時。
農作業には遅い時間だろうが、出立するには程よい頃合いだ。
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