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「誰かが魔術に囚われても、残りのヤツが正気なら助かるだろ? そうやって橋の最後まで乗りきろう」
2人がコクリと頷く。
そしてアヤメを真ん中にして、左右にオレとスミレが並ぶ。
当然だよな?
スミレと手を繋ぐくらいなら、川に沈められた方がマシだっての。
「じゃあ、行くか」
「うん、そうだね」
「慎重に進みましょう」
オレたちは一歩ずつ踏み出した。
そこはもう霧の世界だ。
数メートル先すら見ることが出来ない。
自然と足の運びも遅くなる。
だが一歩、また一歩と、確実に進む事は出来ていた。
「ゆっくりだけども、着実にゴールに向かえてるな。時間はかかるが脱出できるんじゃないか?」
「このまま何も起きないといいんだけどね……」
「慎重に進みましょう」
気を引き締めたまま、奥へと進んでいった。
霧はどんどん濃くなり、隣にいるアヤメの顔さえも見えなくなる。
もちろん周りの景色も見えないので、距離感どころか時間の感覚さえ曖昧だ。
感じ取れるのは、右手の温もりと地面を踏みしめる感覚だけ。
思わず怯みそうになるが、めげずに歩を進めた。
「結構歩いた気がするけど、今どの辺りなんだろうな」
「こう霧が深いと……わかんないよね」
「……しょう」
スミレの声が遠い。
息を詰まらせでもしたのだろうか。
「スミレ、どうかしたか?」
「しん……しょう」
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