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「おい、スミレ!?」
「……ちょうに……」
「おい、何があったんだ!」
問いただしても返事は無かった。
まさか……こんな霧の中、どこかへ行ったのか?
さすがに有り得ないぞ。
「なぁアヤメ、スミレの様子がおかしいんだ。そこに居るんだろう?」
「……なたも転生……のね」
「おいおい、何を言ってんだよ」
「アハハ、これで……も頑張れる……」
「アヤメ! しっかりしろ!」
スミレだけじゃない、アヤメの様子も異常だ。
濃霧のせいで様子はさっぱりわからないが、緊急事態なのは確かだった。
安全を確かめるためにも、腕を強引に引っ張った。
その時だ。
オレの右腕が突然軽くなった。
指先が強ばる程に繋いでいた右手には、今は何もない。
アヤメの手がすり抜けた……いや違う。
忽然と消えたとしか言い様が無かった。
「アヤメ! スミレ! どこに行ったんだよ!」
返事など返ってこない。
耳に突き刺さるような静寂があるだけだ。
視界の通らない世界で独りきり。
今となってはどの方向から来たのか、それすらわからなくなっていた。
「やめてくれよ、オレを独りにしないでくれ!」
両腕を振り回してみても、物が触れる感触はない。
相変わらず地面だけが有る世界。
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