第14話  渡河作戦

6/8
前へ
/111ページ
次へ
「おい、スミレ!?」 「……ちょうに……」 「おい、何があったんだ!」 問いただしても返事は無かった。 まさか……こんな霧の中、どこかへ行ったのか? さすがに有り得ないぞ。 「なぁアヤメ、スミレの様子がおかしいんだ。そこに居るんだろう?」 「……なたも転生……のね」 「おいおい、何を言ってんだよ」 「アハハ、これで……も頑張れる……」 「アヤメ! しっかりしろ!」 スミレだけじゃない、アヤメの様子も異常だ。 濃霧のせいで様子はさっぱりわからないが、緊急事態なのは確かだった。 安全を確かめるためにも、腕を強引に引っ張った。 その時だ。 オレの右腕が突然軽くなった。 指先が強ばる程に繋いでいた右手には、今は何もない。 アヤメの手がすり抜けた……いや違う。 忽然と消えたとしか言い様が無かった。 「アヤメ! スミレ! どこに行ったんだよ!」 返事など返ってこない。 耳に突き刺さるような静寂があるだけだ。 視界の通らない世界で独りきり。 今となってはどの方向から来たのか、それすらわからなくなっていた。 「やめてくれよ、オレを独りにしないでくれ!」 両腕を振り回してみても、物が触れる感触はない。 相変わらず地面だけが有る世界。     
/111ページ

最初のコメントを投稿しよう!

69人が本棚に入れています
本棚に追加