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旅の初日。
飛行機に乗るまでの国内の移動で体はすでにぐったりと疲れているのに、気だけが張って頭が無駄に冴えてしまう。
「栞、眠れない? わたしが起きているから少しでも寝たらいいよ」
隣のシートでタブレットに向かっていた理恵子は栞に小さい声で言った。
機内は暗く就寝時間に入っていた。
さすが慣れている。
こんな時役に立つから、先輩と敬意を込めて呼べるのだ。
そうでなかったら、こんなやんちゃな人、とても傍にいられない。
「なに?」
「いえ、なんでも。じゃあお言葉に甘えて。おやすみなさい」
笑ってしまっていたらしい。
窓の方を向いて、栞は目を閉じることにした。
数時間後、自然に目が開いた。
眠ったというより、時間が飛んだという感じ。
窓の外は日の出の直前で、空が赤く染まっていた。
「起きた? 眠れた?」
眠った時と同じように、理恵子は聞いた。
「眠れました。先輩どうぞ」
「ありがと。じゃあ、少し寝る」
そう言って理恵子はディスプレイを閉じると、10秒もしないうちに寝息が聞こえた。
日本を発つ前に理恵子と夏枝は顔を合わせた。
誰が見たって似た者同士の2人。
本人たちも、言葉を交わす間もなく心が通じ合ったようだ。
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