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「そうじゃなくて、別の表現はないの?!」
翌朝の鏡の中の栞。
髪の毛に寝癖はなく、きれいに顔の周りでそろっている。
羽織物になればと持ってきていたコットンの白シャツを、下まできちんとボタンを留めて着る。
袖を2、3回まくる。
日焼け止め重視のクリームにうす付きのグロス。
目元はマスカラだけ。
そして頬はなにもしていなのに、うっすらと赤い。
準備はできた? という夏枝のことばを思い出す。
今から、カイトに会いに行く。
準備はできた?
同じことばを鏡の中の自分に問いかける。
部屋をもう一度振り返って、忘れ物の確認を行い、ホテルの外に出る。
迎えの車は、古い型の日本車。
ここから更に3時間以上の道のりだ。
国の首都機能を持つ高いビル群の立つ中心街を抜けると、あっという間に農村になった。
それから更にしばらく走ると、道路脇の林はどんどん深くなっていき、道も悪くなってきた。
空港までの逃走で車の揺さぶりは経験済だが、それとはまるで違う地面から響くイレギュラーな揺れ。
慣れない道。
慣れない暑さ。
熱が出そうだ。
「栞。車酔いは大丈夫だっけ」
「大丈夫なはずなんですけど、さすがにこう内臓から揺さぶられるというか、経験したことのない揺れなので、気持ち悪くなりそうです」
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