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「じゃあ、歌でもうたう?」
「歌? いいえ」
「しりとり」
「結構です」
「じゃあ、王子様とどうやって出会ったの?」
理恵子は気を紛らわせようとしてくれているだが、それに乗じて自分の好奇心と記事のネタを聞き出そうとするのが、少々鬱陶しい。
しかし、もうここで拒否する気力もない栞だった。
「簡単に、ですよ」
「ありがと。残りは王様に直接聞くよ」
やっと深い森を抜けた。
唐突に現れる滑走路。
プロペラ機の脇に立つのは、よく知ったあの人の姿だ。
車が止まると同時に飛び出し、ふらつく脚で駆け寄る。
「喬久さん。ご無事で」
ことばが途切れた。
涙がこぼれそうだった。
つややかな黒い髪。
ジャングルに不似合な黒のスーツ。
いつものように言葉少なく、彼女たちを飛行機に案内した。
「さあ、こちらへ」
それでも、いつもより少しだけ笑顔のように見えた。
乗り込んだ理恵子は栞にささやいた。
「いい男」
「やめてください」
ここからプロペラ機で1時間。
またしても揺れる乗り物。
高度が出ると安定したが、足元が終始不安だった。
理恵子は怖いからと言って、寝てしまっていた。
栞はここまでのことを喬久に話しながら気を紛らわせた。
プロペラ機は長い着陸状態からようやくランディングした。
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