弐《に》

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 岡部は盃を酌み交わした後、さらに酒をすすめながら住持に話しかけた。 「領主として、この国に大切な書写の住持様のお力になれればと思っております。何かお望みはありませぬか。所領、刀、何でもご用意いたしましょう」  岡部の真意を読んだ住持は、「僧の身でありますから、そのようなものを頂くわけにはいきません」と断った後、控えている花みつに目をやった。 「あの少年の非凡であることはひと目見ただけでわかりました。是非、私のもとで学問をさせたいのですが、いかがでしょう」  元よりそのつもりであった岡部は、謙遜したのち住持の言葉を受け入れた。岡部の呼ぶ声にこたえ、花みつが住持のもとに参じた。 「お前はここに残り、学問に励むのだ。松王丸(まつおうまる)を側につけておくから、何かあれば家に走らせるがよい」  はい、と答えたその声には、寂しさも含まれていたのかもしれない。しかし、花みつの胸の内にもまた、大いなる学問の道を前にした喜びがあった。  その喜びを表すように、山を下りた岡部のもとには花みつの評判が次から次に聞こえてきた。
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