壱《いち》

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 その赤松一門に、岡部という者が居た。  新参者でありながら、文武両道のつわもの、器量骨柄(きりょうこつがら)芸能才覚(げいのうさいかく)の優れた者であったので、播磨国の守護代(しゅごだい)を任されていた。  守護代になったばかりの岡部を目にした者なら、皆一度は羨望の思いを胸にしたことだろう。  評判の美女を(めと)ったばかりの彼こそが、輝くばかりの美丈夫であった。  体つきも立派で、知恵もまわる。主からの信頼は厚く、家が富貴であることは言うまでもなかった。  しかし岡部には、望んでも得られぬものがあった。
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