ある雨の日の放課後、図書室にて

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 最近、わたしが気に入っているジャンルは「ミステリー」だ。ジャンルが書かれたプラスチック板に視線を送りながら、目的の本棚の前で立ち止まる。ミステリーの本が行儀よく並ぶその本棚の前で、わたしは今日の一冊を探す。色、紙質、タイトル、大きさ。それらの要素から直感を刺激する本を探すのだ。  左から右へ。視線を走らせながら、おもしろそうな本を吟味する。三段目の左端。気になる本を見つけたので、わたしは背表紙の上部に指を乗せて引き寄せた。ページをめくり、紙の感触を楽しみながら「最後のぺ―ジ」で指を止める。  いきなり最後のぺ―ジを確認するのは、もはや最近の習慣になっていた。実はわたしが旧図書室を愛するのは、この「最後のページ」にも理由がある。  本貸し出しのシステムは、プライバシー保護の意識変化とともに変わっていった。本の最終ページにポケットを設け、読んだ人が紙のカードに名前を記載する管理方法――いわゆるニューアーク方式は、随分前に廃れてしまったのだ。  けれど、この旧図書室は記名式カードが取り残されていた。新図書室の何倍も蔵書されているこの部屋中の本を対処するには、相当な時間と労力が必要になる。ほとんど利用されていないことも考えれば、後回しにされていてもおかしくはないのだ。     
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