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そうっとその場を離れようとした雰囲気を読み取ったのか、巧はずいっと私の目の前に、ページが取れてしまった本を突き出した。
「相変わらずお前は落ち着きがないな。見ろ、この本。どうしてくれる」
私は思わず後ずさる。
「ど、どうって。だからごめんって。ね、私、今、現国の本借りなきゃいけないのよ。ちょっと後にしてくれる?」
「フン。平凡な教科書の事なんかどうでもいい。これはある有名な文学作品の初版本でな。ちょっとやそっとでは手に入らない希少な本なんだぞ。それをお前は・・」
「たかが本じゃない。だからさ、テープで貼るとか後で手伝うから。悪いけど今急いでるの。幼馴染のよしみでそれくらい許してよ」
それを聞くと、彼は眉を吊り上げ、はあ!?と非難の声を上げた。
「テープだあ!? そんなので直そうと言うのか!本をなめるな!!」
こちらも負けじと声を張り上げる。
「はあ!? 意味わかんないわよ。だから急いでるんだってば!大体落ちたくらいで壊れるような本持ってくる方が悪いんじゃない!」
そこで巧は一つため息をつくと、肩頬を吊り上げてニヤリと笑った。
私は思わず身構える。彼が何か企んでいる時は昔からそんな笑い方をするのだ。
ふーん、と巧は言った。
「ふーん。そんな事言ってられるのか?真琴。これはな、親父の本なんだ」
親父の本、の所で、巧はわざとゆっくり発音する。
え。
「えっ・・・、そ、それ、おじさんの本なの?」
私は思わず目を見開いた。
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