愛の悲しみ

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愛の悲しみ

 ここだ。私は、エントランスに置かれたフライヤーを認めた。その写真がバイオリニストであることも。確かにこの前を通ったことがある。それも幾度となく。だが、ここが、カフェレストランであることも、また、このビルディング自体も全く気付かない仕儀だった。実は、この界隈を電車に乗らず北浜、淀屋橋へと歩くことがあった。別段のものでもない。街なかにあって、キタやミナミといった繁華街とは違い、人影がまばらで、逆に、ゆきし日の情緒としかいえない機微にふれられる、そういう想いに至らせるからだ。そういったありもしない期待を寄せてもいたのだ。  店の中心に大きなテーブルが据えられていた。ここが相応しいか。私は、連れ添う者もなく一人訪れたていた。大抵は、家族あるいは友達と一緒だった。だから、二人もしくは四人で掛ける小さなテーブルは、そういった人のためにあるとはばかれた。ならば、お一人むきのこのテーブルを。
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