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[きぬ] 甘いのはヤバい証拠
階段下のいびつな隙間にあるロッカールーム。壁の扇風機が全力で回っても、籠った空気を振り払ってはくれない。暑さと先ほどの衝撃で、ヨロヨロと立ち上がるだけで精一杯だ。
働かない頭でここに留まっても埒が明かない。後から入ってきた従業員に挨拶し、着替えを済ませる。……アタマ痛い。
いつもより30分遅れで従業員の通用口を開けると、心配そうな顔をした綿貫が立っていた。
開口一番、
「うわどしたのお前!目の下のクマ!!」
え?僕?
「どした?何かあった?」
「いや……何にもない。待たせてゴメン」
なんだろ、さっきからどんな顔して綿貫と話したらいいのか考えてた筈なのに、視界が暗くて。そんなのどうでも良くなってきた……。
「お前、凄い顔色だぞ、具合悪いんだろ」
目の前の綿貫の声が、遠くから聞こえる。画面越しに観ているようなリアリティの無さ。
「熱は?」と手が延ばされたことに気付かないまま指先が額に触れる。
---っ!!
反射的にその手を払って後ずさった僕。
目をそらす一瞬前、綿貫の瞳が蔭るのが見えた。
「ごめん、つい」
「ん、こっちこそ」
短く言葉を交わした後は無言だった。
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