[きぬ] 甘いのはヤバい証拠

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 ママチャリの荷台に横座りして、ゆっくり商店街を進む。掴まる場所を決め兼ねている間に、綿貫はドラッグストアに自転車を停めた。  無言のまま、ゼリータイプの経口補水液のパウチとスポーツドリンク、水枕をカゴに入れる。  ときおり振り向いて、頭痛いか? とか、熱は? とか、聞いてきたけど、僕は「別に」としか言わなかった。  寮に帰る方向を逸れて、駅前のロータリーでタクシーを呼び止めた。運転手に何やら相談し、僕に向き直る。 「お前、コッチ乗れ。俺は自転車で行くから。車の中でコレちょっとずつ飲んで!」  訳のわかっていない僕を車内に押し込むと、さっき買った経口補水液のゼリーを放って寄越した。 「綿貫ィ、僕これ嫌いなんだよ。塩っ辛くて飲めないよ」 「いいから飲め。全部飲み切ってから寮に着くようにお願いしてあるから」  運転手さんが僕に向かって親指を立てて笑う。 「じゃあ、お願いします」と、綿貫はタクシーから一歩離れた。  車の方が早く着くだろう? 涼しいところに居るんだぞ、と言い残し、自転車が先に走り出す。遅れて、タクシーはウインカーを点滅させて動き出した。
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