[きぬ] 甘いのはヤバい証拠

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 エアコンの冷気と窓の外の熱気が混じり合う車内。タクシーの運転手が話しかけてきた。 「気の回る子だねぇ! 熱中症みたいだって心配してましたよ。  その経口補水ってやつね、ワタシも真夏に飲むんだけど、不思議だよ?  何でもない時に飲むとあんなに塩っ辛いのに、ホントに脱水の時は甘く感じるんですよ。  吃驚しますよ? ほら、飲んで飲んで!  飲み終わるまで寮に帰れない約束だからね。  まあ、あっという間に飲んじゃうだろうけどね」    ちらちらと後部座席を気にしながら運転しているようなので、仕方ないな、とゼリーを口にする。  ……え?嘘だろ? 「甘い……」  運転手はニコリと微笑み、こう言った。 「身体が欲する物は、甘く感じるんだよね。  頭では判んないことは、身体の声を聞くといいですよ。  今の自分に必要なのは何か、本能で解るんです。きっと」  ふうん、不思議だなぁ。  神妙に話を聞きながら、少しずつゼリーを飲み込む。  ふと車内の空気が清涼になった。タクシーは山道に差し掛かり、木々のトンネルの中を易々と登って行った。
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