[きぬ] 既視感

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[きぬ] 既視感

 寮の自分の部屋に鞄を置き、エアコンの効いた共有スペースに行く。いつもなら、ゲームやテレビに興じる奴らが何人かいるのだが、珍しく誰もいない。  ミネラルウォーターを飲みながら床に座り、ソファの座面を背もたれにして天井を仰ぐ。壁際の大きなテレビが消えているのを初めて見た。  もうじき綿貫も戻るだろう。午後の炎天下を、自転車で。ましてや帰りは山登り。マウンテンバイクならともかく、ママチャリで。ご苦労なこった。 「自転車なんか置いて、一緒にタクシー使えばよかったのに」  せめて、いつもみたいに、僕が後ろの荷台からミストファンを脳天からぶっかけて冷やしながら行けば幾分違うだろうに。いつもみたいに、馬鹿な話でもしながら。いつもみたいに……いつも……。  そうだよ、いつも気が付けばアイツといる。友達、っていうか、親友だと思ってたんだ。二人でくだらないことで笑い転げてる。そんな時間が心地好かった……  このままがいいんだけどな。このままじゃ駄目なのかな。  高野が言ってたこと、考えなくちゃいけないと思ったけど、今は無理みたい。瞼を閉じてしまったら最期、泥のような眠気に抗うことはできなかった。
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