[きぬ] HPゼロ

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[きぬ] HPゼロ

 朝から2時まで、喫茶室のバイトは僕ひとり。  ホテルの中の喫茶室。宿泊客の朝食はホテルで出るし、待ち合わせる人も少ない。    他のお客は誰もいないから、アイスティーの氷をわざとカラカラ鳴らしている出勤前のスーラジ君を咎める必要もない。  今時のチェーン店のカフェの中には、食器洗浄機の都合で円柱のグラスを出すところもあるけれど、この店は昔ながらの、グラスの内側に縦縞の凸凹を施したタンブラーでアイスドリンクを出す。そして大きな四角い氷。ドリンクバーの細かいキューブの氷とは違うのだ。  内側の凹凸は洗いにくくてアルバイト泣かせだけど、ストローでひと混ぜした時のカランと鳴る音が格別なのだ。滞店時間が長くなるのを見越した大きな溶けにくい氷。ある程度溶けて、氷がグラスの中で泳ぐくらいになったら、こっそり混ぜてみて欲しい。  マスターの受け売りの話をスーラジ君に教えたら、こうして喫茶室に通うようになり、同じホテルの中にある多国籍レストランの仕事が始まるまで子供のようにカンラカンラ鳴らして楽しんでいる。
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