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8月13日、幼馴染と再会する。
2017年8月13日。久しぶりにこの駅のホームに足をつけた。ざっと2年ぶり。駅舎は変わらない。電車も変わらない。おそらく職員さんの見た目も変わっていない。変わらない光景に安堵しながら涼し気な風鈴の合唱に耳をすまして、ケーブルカー乗り場に向かう一本の橋を進んでいく。一歩一歩、少し早歩きで。
高野山極楽橋駅。俺のような金欠学生は特急列車こうやの乗車料金を払うことにさえ断腸の思いがしたので、ここまで南海電車の急行と各駅を乗り継いでやってきた。なんば駅から2時間弱。世界遺産高野山の玄関口である。
ケーブルカーのホームである少し長めの階段を、急ぎながらも二段飛びはせずに上る。トントントントン。一生懸命上って、先頭車両の乗降口の手ごろなところから車両に乗り込む。そして平行四辺形型ケーブルカーの先頭車両の一番前、窓の真ん前の空間に自分の体を配置する。この車両の運転席は左側に、運転手が一人入れるくらいのスペースを取ってあるだけなので、乗客は一番前から、進行方向の景色を180度眺めることができる。他の電車なら大抵そこは運転席となっていたりするから乗客が立ちいることは出来ない。小さいころ電車が好きだった俺は、そこにいると電車の運転手になったような気分がするから、このケーブルカーに父と乗った時にはいつもそこに陣取ってはしゃいでいた。その名残か、今でも気が付くとこの場所に足が向かってしまう。前方にみえる、列車を支える綱も、列車がこれから登っていく斜面も、そしてその横にある木々や、水の流れも変わらない。また、一つ安心感。
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