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今宵
ヒタ ヒタ ヒタ
満月が村を怪しく照らす夜。
少女は数人の男と、深い森へと歩みを進めていた。
服はところどころ裂け、破け。
細く青白い、痩せた足や腕がのぞいていた。
痩せこけた頬を撫でる髪は伸びほうだいに伸び、長いまつげの伏し目から伺えるその目は、光を映してはいなかった。
「……Schneller gehen」
男の声に少女は足を速める。
言葉は知らないが、しかし。それでも。
―――そう、この少女は。
村の言い伝えにより、今宵、森の奥に潜むとされる魔物の生け贄となるのだ。
数百年に一度、村が不幸に襲われる――それが生け贄を差し出す合図だった。
それが、今年――今日だった。
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