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 君に伝えたいことがある。僕の想いだ。今僕は自分の心を整理している。思い出をたどっている。    君と出会った中学入学時、僕にとって君は単なる同級生だった。  君は母さんが趣味で開いているチェロ教室の生徒さんで隣のクラスの同級生で、ただそれだけで、特に興味の対象ではなかった。  会えば会釈をするくらい。それくらいの興味。  でも、二年生に進学して同じクラスになってから、視界に入る君を目で追いかけてしまっていた。どうしてだろう?いつからだろう?  他の女子が化粧をしてスカートを短くする中、君はさりげないお洒落だけしかしていなくて、よく友人たちが地味だと評していた。告白しよう、僕も同じように思っていた。  でも、覚えているだろうか。  君は一度僕の家のテラスで泣いていた。僕はそれを庭の片隅で飼っていた犬を撫でながら見ていた。  何が悔しかったのか、悲しかったのか分からなかったけれど。君は少しの間涙を流し、しばらくするとそれをぬぐって凛とした顔でまた中に入っていった。その後、君が奏でるチェロの音は、いつもより少し荒々しかったように感じた。  そうだ、それを見てから僕は君を目で追うようになった気がする。  そして三年生になり部活を引退してからは、君と帰りの時間が重なるようになって。  教室をやめていなかった君と同じ方角に帰っていく僕らを、周囲の同級生がよくからかっていたね。  君は素知らぬふりをして、僕もそんなんじゃあないとしか言わなかった。
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