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「早く暖かくならないかな」
電車の窓から薄曇りの空を見ながら、私はため息をついた。制服の上から着ているダッフルコートの襟を強くつかみながら。
「真琴、寒いの苦手だもんね。二月は辛いよね~」
クラスメイトの美夕がくすくす笑う。
私は、どうせ寒がりですよ、とちょっとふくれて見せた。優しい彼女は慌てて付け足す。
「こんな日は早く帰ってこたつにみかん、だよね」
それはそうだ。
「ほんとほんと」
プシューッツ
穏やかなブレーキがかかり、自分達が降りる駅に着いた事を感じた。
美夕としゃべりながら、前にいる人達に続いてプラットホームに下りる。
その時。
コトン、と足元で音がした。
見ると、オルゴールのような小さな金の箱が蓋の開いたまま落ちている。
誰かの落し物かな。
拾おうとしゃがんだ時、
「真琴っ!?」
私のすぐ後ろにいた美夕が、悲鳴に近い声をあげた。
えっ!?
な、何!?
私は、彼女へ振り向こうとした瞬間、急に足元の感覚がなくなったのを感じた。慌てて前を見る間もなく、自分の体が一瞬宙に浮いたのが分かった。
そして。
がくん、と。
「え。えええええーっっ!?」
底のない闇の中を、私は落ちて行った__。
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