プロローグ

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 ギルディアは額をさすりながら話し、私は思わずそのひどい傷に目が行った。彼は私の視線を感じ、ふふ、と笑う。 「これはわしの勲章じゃ。まだ大臣だった折、ここが大きな台風に見舞われた事があった。建国以来最大の災害と言われた程のもので、わしはその時嵐の中を飛び回り、住民を救助したり避難場所に先導した。これはその時できた傷じゃ。その働きが認められ、王となった。わしはかつて、何の身分もない一般平民だったのじゃ。ここは実力主義の国。白の国のような、王族による王位継承なんて甘っちょろい。真に強い物だけが王になれるのじゃ」  なるほど、と私は思った。これほどの自信と迫力は全て自分で培ってきたんだ。部下や国民があれほど彼を敬うのも分かる気がする。こういう王もいるんだな。テオとはまた違うタイプだけど、黄金国の王たる者は、全てを統率するんだから、これぐらい強くないと駄目なのかな。  私の考えをよそに、ギルディアはすっかり上機嫌になっていた。 「この度はわしも楽しかった。当初黄金国の王たるものがお忍びとは、と驚いたがお互いを知るには良かったのかもしれぬ」  よし、機嫌もいいし、握手してみよう、と私が手を差し伸べようとした時、彼ははっと我に返って慌てだした。 「いかん、わしとした事が。今日は学校訪問があってな、こことは場所が違うのじゃ。王よ、申し訳ないが子供達を待たせておるので至急失礼せねばならん。帰りは部下達が責任を持ってお送りするので心配無用じゃ」  彼は部下達に指図し、飛び立とうとし始めた。 「ギ、ギルディア!じゃあ今度黄金国に来てくれないかな。ちょっと話したい事があるんだけど!」  彼は飛び上がりながら、 「お安いごようじゃ。久しぶりじゃから楽しみじゃの」 と言い残し、去って行った。  あーあ。握手そびれちゃった。ま、後日でいいや。とりあえず赤の国の訪問は取り付けたぞ。でも、白の国とは本当に仲が悪いんだなあ。これは当日まで秘密にしておこう。  そうして、私達は赤の国を出発し、次なる目的地、白の国へと向かった。
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