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私は必死に無理な約束をせがむも、母は優しい笑顔で応えてくれた。無理な約束も、この笑顔で応えられる母が言うのであれば信じて待つことが出来る気がして少し安心する。
「じゃあお母さん、私バイト行ってくるからお母さんも頑張って良くなってね」
「はいはい。柊君にもよろしくね」
手を振る母に背を向け、私は病室を後にした。
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目の前のドアから彼女――桜美奈(さくらみな)が、無理に笑顔を作っているような、そして悲しげな表情で病室出てきた。目は赤くなり、泣いていたことが窺える。
「おばさんどうだった?」
「どうもこうも、いつもどおりよ。私を悲しませまいと無理をしているのが見え見えよ……」
「そうか……」
美奈の母――恭子(きょうこ)さんは、とある出来事で体調を悪くしてからずっと入院している。こんな時くらい気の利いた言葉の一つや二つかけてやるべきだとは思うのだが、俺は美奈に返す言葉が見当たらず立ち尽くしてしまう。
「そういえばお母さんが、柊にもよろしくと言っていたわ」
「おばさんが俺に?」
「昔から知っている仲だし、何気にお母さんは柊のこと気に入っているみたいよ」
「そうか。じゃあまた今度、俺もおばさんのお見舞いに来るよ」
「ええ、きっとお母さんも喜ぶと思うわ」
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