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バックヤードにてスタッフ同士の終礼を行った後、エプロンをロッカーに片付け帰り支度をする。借りた薄い本もしっかり鞄の中にしまって帰り支度を済ませた俺は、何とか今日の挽回を図るべく美奈に話しかける。
「美奈、さっきはすまなかった。一緒に帰ろうぜ」
「……ええ」
美奈はこちらも見ずに機嫌の悪そうな声で返事をする。美奈はまだ帰り支度中なので待っていたのだが、俺と美奈の会話を目にした周りのスタッフ達がこそこそ笑っていたりして、バックヤードの雰囲気が何とも落ち着かない。
そんな中、適当にスマートフォンをいじりながら待っていると、いつの間にか美奈の姿が見当たらない。一緒に帰ることについて承諾してくれたというのに、待っていた俺を呼びかけもせず、そのまま店を出てしまったようだ。ふと入り口に顔を向けると、店の外に美奈の姿を見つけた。
「待ってくれよ!」
既に帰路についている美奈の背中を、俺は慌てて追いかけた。何とか追いつき、美奈の前に出て息を整える。
「一緒に帰ろうって約束したのに、先に行くなんてちょっとひどくないか?」
「――から」
「え?」
ぼそっと何か言ったようだが、声が小さくて聞き取れなかった為もう一度聞き返す。
「柊も、ああいう本を見て女の子をいやらしい目で見てるんだと思ったから」
真面目なトーンで話す美奈を前に、俺は何も言えなくなった。
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