168人が本棚に入れています
本棚に追加
台所にいた妹――能美楓(のうみかえで)が、自慢のツーサイドアップの茶色の髪を翻しながらエプロン姿で玄関へと出迎えた。
「ただいま、楓」
楓の明るい顔を見ていると、先程までの重い気持ちが嘘のように心が晴れる。楓は、我が妹とは思えないほど可愛らしく、そして頭の回る出来のいい自慢の妹だ。もちろん作るメシもうまい。
先に言っておくが、俺はシスコンではないからな? ただ仲の良い兄妹ってだけだからな?
「さっき難しい顔してたよ。どうしたの?」
「別に何でもないよ」
顔に出ていたのか、いきなり心配モードで応対してきた楓をポーカーフェイスでやり過ごす。楓も、俺と同じくらいかそれ以上に美奈と仲が良いので、今日の失態はばれたくない。
「ふーん? ならいいけど」
「それよりメシ出来てる?」
「もちろん! 早速ご飯にする? お風呂が先? それとも――」
あたかも付き合っている男女のようなやり取りが始まる。妹よ、そのテンプレ台詞は同棲し始めた男女カップルの会話であってだな――
「いっぺん死んでみる?」
おかしい、聞き間違いか? 俺はまるでどこかの河の上で小船に乗せられ、地獄に連れられてきたような感覚を覚えた。
「楓ごめん」
「なに? お兄ちゃん?」
「今のセリフ、ちょっと何て言ったか聞こえなかったんだけど、もう一回言ってもらってもいいか?」
最初のコメントを投稿しよう!