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何故なら今の自分の声はやけに甲高く、そして身に付けているピンクのパジャマの胸はふっくらと盛り上がっている事に気が付いたからだ。
「お、お前……。ひょっとして真由美……なのか?」
「何、言ってるのよ? 浩介ってば、もうボケ始めたの? リコはまだ小さいんだから。しっかりしてよ!」
俺と瓜二つの姿形をした妻が、俺とそっくりな野太いダミ声で愚痴を言い始めた。
どうやらまだ妻は、まるで漫画のようなこの異変に何も気が付いていないらしい。
「あら? おかしいわね。何だか今朝はやけに目が霞んでぼやけるわ」
眼をショボショボさせながらボンヤリと見つめ返す妻に俺はある物を差し出した。
「ほら、コレ」
俺は学生時代から目が悪い。ベッドの上に置きっ放しにしている愛用の眼鏡を受け取った妻は「私、まだ眼鏡なんて必要ないわよ」と言いながらもすんなりと眼鏡をかけた。
「……えっ?」
ようやく焦点が合った目でマジマジと俺を見つめている。
「えーっと? こんなところにこんな大きな鏡があったかしら?」
「姿見じゃないよ、真由美。俺だよ、俺……。浩介だよ!」
そう妻に呼びかける俺の声は、まるで宝塚歌劇団の男役のように甲高くてハスキーだ。
「どういうこと? 目の前に居る私が俺、俺って……。これって何かのドッキリ番組? それとも新手のオレオレ詐欺なの?」
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