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「……俺、春まではライブ控えてたんすよ。卒論書いてて」
「……そっ」
やっぱり学生だったー!
信じたくないような予感的中のような、複雑な真実に口をあんぐりと開き固まる。
「……就職したの……?」
「はい。やから、これからはバリバリ参戦しますよ」
恐る恐る投げた問いに、脈を感じさせる答えが返って来て胸が鳴る。
しかし1年前と同じく、表情から意図は読めない。
「……それって……」
「“夜の電車、夜の音“」
不意に語られた曲名に、肩が跳ねる。
「俺が意味を決めて良いんやったら、また会えたってことっすね」
口にした顔があの日と同じように、目を細めた。
同時にインタビューの一文が思い起こされる。
“意味は、聴く人が決めてくれたら良いかなって。”
「YOHさ……」
「葉平です」
呼び掛けを遮り、知りたかった名前が目の前の唇から紡がれる。
高鳴る鼓動と緩む頬を許容するように、海風がわたし達を包み込んだ。
「狭山葉平。ミドリさんは?」
「高栄翠……です」
END.
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