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不意に口に出された言葉に反応して顔を向けると、鋭い眼光が光る。
「激混みなんで終演前に出るか、泉大津までバスよりタクシー使った方が良いっすよ。本気で終電なくなるんで」
「えっ、終電が!?」
思わず怪訝な表情で、聞き返してしまう。
終演は21時頃だったはずだ。まさか終電がなくなるなんて、予想だにしなかった。
「そうっすよ! 何処から来てはるんですか?」
「わたしは、兵庫県の尼崎の方から……」
「遠いんじゃないすか? 僕は、まだこの辺なんで良いですけど」
「それは貴重な情報を頂きました。ありがとうございます」
動揺して腕時計に視線を注ぎつつ返した言葉が丁寧過ぎたのか、彼が吹き出すように口元を緩めた。
どういうわけか、胸元が微かに音を立てたような気がした。
あぁ、全然嫌な人じゃなかった。
恐い人と思ってごめん、と心の中で前言撤回する。
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