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まだライブの余韻を纏った人々と連なる駅への道程、吐き出した溜息は白く夜空へ昇って行く。
そんなわたしを察した絢が、隣から口を挟んだ。
「なんか、誰か探してへん?」
「……えっ!? 誰かって??」
「そんな、内緒にせんでもえぇやん。寂しー」
「……」
絢とはこれまでも散々恋バナを繰り広げて来たが、何か気恥ずかしく、俯いて口を噤む。
自分の頬が僅かに紅潮しているように感じられるのは、踊って汗をかいたからだと言い聞かせて。
「もしかして……あのチケット譲って貰った人?? 確か、うちが電話した時声がした気がしててん」
「……よく覚えてんね、そんな事」
「気になってるんや」
今日も耳の下でひとつに纏めたウェーブヘアを揺らしながら、柔らかく笑う。
「……気になってるって言ってもな……名前も連絡先も知らへん」
「……そっか……」
視線を落とし会話を途切れさせた彼女に、わたしの気持ちも途切れてくれれば良いのにと願いながら、道を行く足元を眺めた。
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